うつ病の診断とチェック項目
精神的な疾病の診断は、異常な行動、脳波や脈拍、発汗といった外部から見える内容以外は、基本的に全て自己申告の情報を元に判断されます。
つまり心が苦しい時に「どのように、どれくらい」苦しいのか、自分で考えたり人に伝えたりすることが必要になります。
医療機関の受診を検討している人や、「アレ?なにかおかしいな、これって病気かしら」と考えている人は以下の診断基準や項目を読んでみてください。
どれくらい当てはまっているかも重要ですが、自分の心を観察したり医者に伝える時に「どこに注意して観察すればいいのか」を知っておいてください。
風邪かどうかを知りたい時には「熱があるか?咳が出るか?寒気がするか?」と考えますよね。今は心が元気いっぱいな人も、うつ病に悩む日や知人がうつの症状を示す時が来るかもしれません。その時に「見るべき所」を知っておくのは無駄ではないはずです。
一番気をつけて欲しいのは、ほとんどの診断基準では「原因は問わない」ということです。今現在の様子、状況で判断します。昔はまた別の方法がとられていたのですが、これは世界的な流れです。
うつ病に関する評価基準はハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、ベックうつ評価尺度(BDI)、モンゴメリー・アズバーグうつ病評価尺度(MADRS)、他の関連でヤング躁症状評価尺度などの様々な簡易的な方法があります。
ここではHAMDを例に内容を紹介しましょう。
チェックの際の注意点
これは基本的に医者はどこを見ているのか、自分は何に気をつけていればいいのかという問題です。あくまで目安ですので、心配な方はきちんと医療機関を受診してください。
また以下に判断基準を書きますが、これは病院で何と答えればいいか、ということではありません。もちろん内容を知っていることはかまいませんが、カンニングペーパーのようなものではないのです。
お医者さんに対面した場合には、以下の内容は一度頭から外して、心配なこと、不安なことをありのままに伝えてください。
GRID ハミルトンうつ病評価尺度(GRID-HAMD)
17項目版と21項目版がありますが、今回は21項目を全部記述します。最初にベースライン(うつ状態になる前の基準)を考え、そこからの変化を読み取ります。
また過去一週間を考える診断なので、例えば昨日から状態がよくなり今は何とも無くても一週間の平均像を考えなければなりません。
最初に「最近1週間について、調子はいかがですか」「2ヶ月以上続けて「ふだんの」気分で過ごせたのは、一番最近ではいつのことでしたか」という質問から入ります。
抑うつ気分
(元気なときと比較して)この1週間のご気分はいかがでしたか?
気持ちが沈み込んだり、憂うつになったりすることがありましたか?
何か良いことが起こると気持ちが明るくなることがありましたか?
罪責感
この1週間、ことさらに自分を責めて考えたり、他の人に迷惑をかけてしまったと感じたりしましたか?
この1週間、どのくらい強く自分を責めて考えてしまいますか?
いまのうつ症状は「自分が何か悪いことをやったことに対する罰だ」と思われますか?
自殺
この1週間、生きている価値がないと考えたことはありました
か?
どんな風に考えられたのですか?
死んだ方がましだというような考えは?
この1週間に実際に自分を傷つけたり、自ら命を絶とうと考えられたことはありますか?
入眠困難
いまのような状態になる以前、普段は何時頃に寝ついて、何時頃に目を覚ましておられましたか?
この1週間は、夜の寝つきに問題はありましたか?
寝つくのにどれくらいかかりましたか?
中途覚醒
この1週間、夜中に目を覚ますことはありましたか?
もう一度寝つくのにどれくらい時間がかかりましたか?
すぐ目が覚めたり、ぐっすり眠れないようでしたか?
早朝覚醒
病前の覚醒時間と比較して、この1週間、最終的に目を覚ますのは何時頃ですか?
目覚まし時計で起きるのですか、それとも自然に目が覚めるのですか?
もう一度寝入ることは出来ますか?
もう一度寝入るのに、ふつうどれくらい時間がかかりますか?
仕事と活動
この1週間はどのように過ごしておられましたか?
自分で興味を持ってやっておられるのですか?
それとも、自分で無理をして、あるいは努力して、やらなくてはならないようですか?
今回のうつ症状が始まる以前は、どんなことを楽しみにしておられましたか?
以前やっていたことでやめてしまったことが何かありますか?
普段と同じだけの仕事をこなすことが出来ていますか?
物事を成し遂げるのに無理をしなくてはなりませんか?
ご家族や友人とどれくらいの時間を過ごしていらっしゃいますか?
普段よりも減っていますか?
精神運動制止
これには質問がありません。対面での面接であれば話す言葉のペースが遅かったり、途中で止まったりする様子を観察し、考慮します。
精神運動激越
これも同じです。対象者のイライラした動作や落ち着かない様子を判断します。
不安の精神症状
この1週間、とりわけ神経を張りつめたり、イライラしたり、しておられましたか?
普段のあなた以上に神経を張りつめたり、イライラしておられましたか?
この1週間、あれこれ心配をしておられましたか?
不安の身体症状
次のような体の症状が、この1週間に、あったかどうか教えてください。
消化器系:口が渇く、おならが出たりおなかが張る、消化不良、下痢、便秘、胃けいれん、げっぷ
心循環器系:動悸
呼吸器系:ため息、過呼吸
その他:頭痛、おしっこが近い、汗をかく、頭がポーとなる
食思不振(消化器症状)
この1週間、(普段と比較して)食欲はいかがでしたか?
普段と同じくらい、おいしく食べられましたか?
無理をして食べなくてはならなかったですか?
まわりの人にうながされて食べていますか?食事を抜かしたことがありますか?
全身の身体症状
落ち込む前と比較して、この1週間の元気とか体力はいかがでしたか?
ふだんと比較して、どのくらい体力が低下しているようですか?
疲れた感じがしますか?
今週、筋肉痛その他どこか体に痛みはありましたか?
この1週間、手足や背中、あるいは頭が重い感じがしましたか?
体が重くなった感じがしましたか?
性的関心(生殖に関する症状)
この1週間、セックスに対する関心はいかがでしたか?
(実際の行為についてお尋ねしているのではなく、セックスへの関心とか喜びについてお尋ねしています)
元気だった頃と同じですか、違っていますか?
心気症
この1週間、どの程度自分の体の健康状態や体調のことを気にしておられますか?
落ち込む前よりもたくさん、そういうことを考えていますか?
自分は体の病気ではないか、何か体の病気があるのではないかと心配したことがありましたか?
体重減少
今回、気分が落ち込み始めてから、体重が減りましたか?
それは、気分が憂うつだったり落ち込んでいるせいだと思われますか?
何キロぐらい減りましたか?
病識欠如
これも質問は存在しません。明らかに鬱状態にあると思われる人が「自分はどこも悪くない」「私はうつではない」と思っているかどうかの判断です。
17項目のチェックの場合は、ここで面接は終了になります。
日内変動
この1週間、一日のうちの決まった時間帯、たとえば朝とか夕方に他の時間より調子が良くなる、あるいは調子が悪くなるということがありましたか?
少しだけ悪くなりますか、あるいはとっても悪くなりますか?
今週は何日ぐらいそうなりましたか?
離人症
この1週間、まわりのものすべてに実感がないとか、夢の中にいるようだとか、妙に他人との間にへだたりがあるようだとか、感じたことがありますか?
自分自身が自分自身から切り離されているような感じがしたことはありますか?
回りの世界が変に見えたり、現実的でないように見えたりしたことがありますか?
被害関係念慮
この1週間、他の人についてことさら疑り深くなっていましたか?
あるいは、誰かがあなたを困らせようとしているとか、傷つけようとしていると考えたことはありましたか?
強迫症状
この1週間、何度も何度も繰り返してやらなくてはならないことがありましたか?
(例えば、ドアの鍵を確認するとか、何か特定のものにさわるとか、手を洗うとか)
特定の考えとかイメージとかが、無意味だと分かっているんだけれども、そして止めようとするんだけども、何度も何度も頭に浮かんでくることがありましたか?
最後に
もう一度繰り返しますが、これはあくまで目安です。誤解や誤診を招くといけないので、このチェックの実際の採点基準は書きません。不安な方はきちんと受診してみてください。受診して「何とも無い」と言われれば、それはそれで良いことなのです。